ささくれとレモネード
瞬は短く唸った。
「あいつ、陸上競技だけさぼるんだよ。1年の頃もそうだったみたいでさ」
でも理由は教えてくれねえんだよな、そう付け加えた言葉に、榛名は閉口した。
彼がそこまで“走ること”に頑なになるのは何故なのだろう。榛名はそこまで考えて首を振った。
どちらにしろ、今日の授業で彼に会えるのだから、謝罪をすれば以後は平行線の関係に戻るのだ。
そうして何もなかったことにすればよい。
彼が今日、体育の授業にわざわざ参加するのは、自分に文句を言いたかったからかもしれない。
榛名は最後の一口を運ぶと、静かに弁当箱を包んだ。
*
「グラウンド2周ねー」
6限の校庭に、はつらつとした声が響く。
いつものウォーミングアップを、2クラスが気だるそうに取り組み始めた。
きょろきょろと辺りを見渡す榛名に、彩花がそれを促した。
「さ、走ろう」
頷きながらも、榛名の視線は忙しなく動いていた。
なかなか見当たらない。諦めて足を動かそうとしたそのときだった。
突然、後ろから腕を引かれる。
体勢を崩した榛名の肩をもう一方の腕が支える。
振り返った榛名は、目を見開いた。
「な、何するの」
驚いた榛名には目線も落とさず、彼は彩花に一言告げた。
「この人。ちょっと借りるね」
凛とした低音。三浦だった。