ささくれとレモネード



瞬は短く唸った。


「あいつ、陸上競技だけさぼるんだよ。1年の頃もそうだったみたいでさ」


でも理由は教えてくれねえんだよな、そう付け加えた言葉に、榛名は閉口した。



彼がそこまで“走ること”に頑なになるのは何故なのだろう。榛名はそこまで考えて首を振った。


どちらにしろ、今日の授業で彼に会えるのだから、謝罪をすれば以後は平行線の関係に戻るのだ。


そうして何もなかったことにすればよい。


彼が今日、体育の授業にわざわざ参加するのは、自分に文句を言いたかったからかもしれない。


榛名は最後の一口を運ぶと、静かに弁当箱を包んだ。









「グラウンド2周ねー」


6限の校庭に、はつらつとした声が響く。



いつものウォーミングアップを、2クラスが気だるそうに取り組み始めた。


きょろきょろと辺りを見渡す榛名に、彩花がそれを促した。


「さ、走ろう」


頷きながらも、榛名の視線は忙しなく動いていた。


なかなか見当たらない。諦めて足を動かそうとしたそのときだった。


突然、後ろから腕を引かれる。


体勢を崩した榛名の肩をもう一方の腕が支える。


振り返った榛名は、目を見開いた。


「な、何するの」


驚いた榛名には目線も落とさず、彼は彩花に一言告げた。


「この人。ちょっと借りるね」


凛とした低音。三浦だった。


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