ささくれとレモネード
状況が飲み込めない彩花を置いてきぼりにして、三浦は右腕を引っ張っていく。
ランニングする集団とは逆方向へと、榛名を連れて行く。
「ちょ、ちょっと、ねえ」
怖くなって腕を引いたのにびくともしない。表情も見えずに、無言の背中はずんずんと歩いていった。
段々と体育教師の千原の背中が見えてくる。
彼女が足音に気づいて振り返る。そこでようやく、三浦の足が止まった。
「北村の調子が悪いみたいです」
一瞬名字を呼ばれて、鼓動が大きくなる。そのせいで彼が何を言ったのか理解するのに、時間がかかった。
「あら、本当に?」
「はい。足元がふらついていたので、咄嗟に支えてやりました。貧血だそうで」
「保健室に行った方がいいかしらね」
「いや。ここで少し休みたいそうです。良くなったら参加したいと――な?」
突然三浦が振り返る。よくもそんな出鱈目を、と、睨み付けようとしたが、彼の顔に迫力を感じた榛名はたまらず首を縦に振った。
「そうか、でも今日は無理をしない方がいいわ。出席扱いにするから、具合が良くなったら、出来る範囲で三浦くんのお手伝いをしてくれる?」
千原は何も疑うことなく微笑んだ。その好意を受け取るのに罪悪感を持ったが、仕方がなく榛名は頷いた。