ささくれとレモネード



玄関と通路を挟んだ向かい側、段が低くなっている待合室。


自動販売機が3つ、壁には学校便りや犯罪防止を謳ったポスターが留められている。


玄関を背に、榛名はコの字型の木製のベンチに腰掛けた。


吹き抜けの中庭に、静かに雨が降っている。


何となく見つめていた榛名は、後ろから近づく足音で我に返った。


「ほらよ」


三浦がアルミ缶を差し出す。


受け取ってから榛名は苦い顔をした。


「せっかく買ってやったのに。まだ怒ってる?」


息を吐いて、一人分空けて腰掛ける三浦に、榛名は首を振った。


「そうじゃない。無難にお茶で良かったのに」


品揃えも豊富、と生徒から評判の高い自動販売機だ。それなのに、榛名はなかなかどうしてこのチョイスだったのか、と三浦を疑った。


レモン味の炭酸飲料。三浦は首を傾げた。


「好きそうな顔してたから、レモン」


「その逆。炭酸もレモンも好きじゃない。」


三浦はプルタブに被せていた手を止めた。そうして榛名の手のひらからそれを奪って、自分の缶コーヒーを預けた。


「俺は好き。炭酸も、レモンも」


「うん」


「で、なんで」


炭酸の抜ける音がした。そこから少し遅れて、柑橘の匂いが鼻を掠める。


幼い頃、荒れた喉に染みるレモンが苦手だった榛名は、そう口を開こうとした。


「なんで帰ろうとしたの」


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