ささくれとレモネード
榛名の脳裏に、大きな影がちらつく。
こみ上げてくる感情を抑えることに必死で、それだけで呼吸が浅くなる。
「でも、それじゃ何も変わらない」
三浦は最後の一口を飲み干した。そうして静かに言った。
「どこかで飲み込んでやらないと、受け止めないと、その引っ掛かりはいつまでも残るんだよ」
雨音の響くロビーで、その言葉がしっかりと榛名の耳に流れてゆく。ぐちゃぐちゃになっていた感情が一旦、鎮まっていくような気がした。
「北村に会ってから、色々と思うことがあるんだ」
そう言うと、三浦は空き缶を捨てに立ち上がった。そうしてまた戻ってくると、同じように一人分を開けて座った。
そこでようやく、三浦の姿勢が榛名の方に向いた。
「あんた、笑わないだろ」
「え――」
「最近、心から笑ったこと。思い出せる?」
榛名は頭の中の引き出しを急いで探ってみたが、空っぽだった。それをそのまま言うのは気が引けたので、俯いたまま無言の肯定をした。
「俺も大概そんなもん。だから思ったんだよ、あの時――」
『合わせ鏡見てるみたいだなって、』付け加えた一言が、榛名の顔を上げた。