ささくれとレモネード



目の前が暗くなり、やにの匂いが鼻を刺激した。鼻が鈍っていても誰のものか分かるその匂いに、顔をしかめながら見上げた。


「退屈か、そんなに」


ふてぶてしいのは腹回りだけでない。その口調も、にたっと笑う顔も、ねちっこい性格も。


抵抗する気力もなく、榛名は項垂れた。


「発展問題解けばいいんですね」


いつものことだ。


しかし、擦れ違いざまに、いや、と呼び止められて、榛名は目を丸くした。


この人にも情けがあったのかーー感心しながら振り返ったことを一瞬で後悔した。



何故なら。


不健康な浅黒い顔が、相も変わらず不適な笑みを湛えていたのだ。



「今日やる問題、全部解け」









「な、んなの、よ、もう」


息も切れ切れに、苛立ちを隠しきれず、榛名は友人の彩花(さやか)と重い荷物を抱え歩いた。


彩花がちらりと横目で見ると、友人は周りの目を気にせず怒りを露にしている。


ああ、綺麗な顔に皺が寄っている。


彩花は苦笑いしながら、嵩張った(かさばった)冊子を持ち直した。



偏屈な数学教師の無理難題を、榛名は容易くこなした。


一つも残らず解いたのだ。


それはそれは素っ気ない素振りで。


黒板に順序よく組み立てられた数列に彩花が惚れ惚れとしていると、周囲からも感嘆の息が漏れた。


面白くない結果に、数学教師は榛名に雑用を押しつけて、チャイムが鳴る前に教室を出ていってしまった。


雑用とは、問題集の配布。毎週末の課題となるものだった。


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