ささくれとレモネード



常に手肌を気遣っている榛名は少し顔を歪めた。


「それ、痛そう」


「ん、これ?どうってことないよ」


男子は気にしないものなのかもしれない。榛名はお釣りのレバーを引かずに、そのままアセロラのジュースを選んだ。


「わたしのお母さん、そういうの口うるさくて。『ささくれは親不孝者の証拠よ』ってよく言うから」


「親不孝者、ねえ」


三浦の相槌が、やや詰まる。一般的な言い伝えだと思っていたのだが、と何の気なしに榛名は振り返った。


「間違っては、無いかもな」


三浦は物憂げな目をしていた。自分の握りしめた掌を見つめて。


また癇に障るようなことを言ってしまったのかもしれないーー榛名は焦って頭を下げようとしたが、それは三浦の一言に遮られた。


「北村って、徒歩通学?」








この頃日が伸びたのを感じていた帰り道。学校からの下り坂を降りるのは二人だった。


隣を見上げると、割と鼻筋が通っている横顔だと気づく。気付いた瞬間に胸がざわついた。


三浦の問いに頷いて「青葉駅方面」と言うと「俺もバイト先はそっち」と返された。



そうして現在。いつもの帰路を三浦と歩くに至っている。


彼は平然とした顔でぽつりぽつりと質問をしてくる。正面を見据えて、時々炭酸飲料をあおりながら。


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