ささくれとレモネード



何か口を開けば、また不愉快な気分にさせてしまうのではないかと榛名は不安だった。


恐る恐る尋ねてみると、意外と答えが返ってきた。


瞬とは去年も同じクラスだったということ。


食べ物の好き嫌いは然程ないということ。


数学が苦手で根っからの文系気質だということ。


それから三浦は電車通学で、家の所在は学校を境に青葉駅とは反対側の駅方面なのだという。


バイトへ行くにも通学するにも電車を使い、4両目の最初の扉の前に立つ。他の車両では落ち着かない、と、変わった癖も教えてくれた。



大道路に掛かる歩道橋の上。薄暗くなってきた視界に浮かび上がるライトによそ見をしていると、三浦が徐(おもむろ)に呟いた。


「北村、兄弟いるだろ。妹か弟」


榛名は頷く。


「妹がいる、まだ4歳の。どうして分かったの」


「俺も妹が居るんだ。だから何となく分かる」


そういうオーラが見えるんだよ、と付け足して榛名の笑いを誘った。



「じゃあ、4人家族か」


「ああ。でも母親と妹は隣県に暮らしてる」


「え、」


一瞬躊躇いの声を小さく漏らしたのを、三浦は聞き逃さなかった。そういう家庭ではないのだというように、三浦は小さく首を振る。


「俺も中学までは隣県に住んでたんだ。でも高校はこっちに進学したくて。そういう理由で」


一度『複雑な家庭』を想像してしまった榛名は安堵した。その情けない顔を見て三浦も笑った。


< 37 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop