ささくれとレモネード



次に目覚めたときには、すっかり日は沈んでいた。


身体を起こすと視界は靄がかかったように暗く、街灯がぼんやりと窓の外に写っていた。


豆電球を便りに、立ち上がった榛名は手探りでスイッチを点ける。



煌々と照らし出す光に目を細める。時刻は午後7時手前。それから視線をずらすと、サイドチェストに花の模様が彩った盆が載せられていた。



近づいて、その上のマグカップに手を伸ばす。


ちょうど良い蓋がなかったのか、覆われていたティッシュを捲ると、榛名はその中身に苦い顔をした。





居間へ降りていくときには部屋着に着替えた。寝巻きのままでは小春が心配そうに見つめてくるからだ。


幸いなことにその声には目もくれず、クレヨンを握りしめた後ろ姿が見えた。


自分はもう大丈夫だとアピールするように、榛名は声を張った。


「ちょっと、これ。なんなのよ」


小春の相手をしていた父と、料理をしていた母が同時に振り返った。


榛名は台所の方へと歩いてゆく。


わざとらしく差し出したそれを見て、母はなんてことないように呟いた。



「何って。レモネード」


「そんなの分かってるわよ、もう。わたしが嫌いなこと知ってるじゃない」


子供がするように口を尖らせた娘を、母は呆れた顔で一瞥した。


「あんた、昔は好きだったじゃない。遊びに来たお友達に振る舞うくらい。ただ粉を水で溶かすだけなのに、見栄張って」



あとで聞いたときには笑いを堪えるのに必死だったわよと、櫻子は、さいの目に切った豆腐を、鍋にとぽんと入れた。


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