ささくれとレモネード
「今日、何日目なの」
保健医の佐伯百合(さえきゆり)の言葉は、女性なら主語がなくても分かる定型文だった。
「二日目です」
そうかあ、と相槌を打った佐伯は、付属の流し台でお茶の用意をしてくれた。
いつもは眼鏡をかけてキーボードを叩いているのに、今日は目元のフレームが見られない。
週末ということも相まって、埋まっているベッドも一つだけだったせいか、佐伯の動作には、より一層の余裕が見られた。
その背中を見つめていると、榛名の口から自然と言葉がこぼれた。
「眠れなくて、昨日」
佐伯は無言でやってきて、桜模様の湯飲みを榛名に手渡す。
一口啜る。ほうじ茶だ。
「うん」
頷いた目の前の人は、ピンクのルージュがよく似合う。
髪の毛はきっちりと纏めているが、眼鏡をかけていないその笑顔には、いつもとは違う穏やかな色気を感じた。
暫くじっと見つめていても、何も言わない。何があったのかと催促もしない。
その焦れったいような気持ちが喉を出そうだったので、慌ててお茶と一緒に飲み込んだ。