ささくれとレモネード



サッカーボールに慣れ親しんで、はや十年。


小柄なのは順当に緋山家の遺伝子を受け継いだ証拠だった。


そんなことでは決してくさらず、むしろそれ故の俊敏さを活かしてレギュラーを掴んでいた。


脚力には自信があるのに、それなのに。


(畜生、届かねえ)


鍛え上げられた足がバランスを崩してしまいそうで、背中が遠い。


障害物を悠々と越えてゆく、軽やかなそれには、むしろ羽根があるようだった。



息が上がってゆくなか、口には出せずとも、瞬はその背中に必死で問いかけた。


(お前、一体何者なんだ)






少し離れたところで男子の輪ができていた。


榛名は十人並みのペースでハードル走を終えて、彩花と談笑していたのだが、異様な雄叫びに振り返ったのだ。


男子のレーンでよっぽど良いタイムが出たのだろうか、1人をたくさんの男子が囲っていた。


感嘆の声が飛び交うなか、その中心にいた人物に焦点が合う。


三浦だ。


友人に頭を叩かれて、破顔していた。


(あんなくしゃくしゃに笑うんだ)


榛名は思った。


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