ささくれとレモネード
サッカーボールに慣れ親しんで、はや十年。
小柄なのは順当に緋山家の遺伝子を受け継いだ証拠だった。
そんなことでは決してくさらず、むしろそれ故の俊敏さを活かしてレギュラーを掴んでいた。
脚力には自信があるのに、それなのに。
(畜生、届かねえ)
鍛え上げられた足がバランスを崩してしまいそうで、背中が遠い。
障害物を悠々と越えてゆく、軽やかなそれには、むしろ羽根があるようだった。
息が上がってゆくなか、口には出せずとも、瞬はその背中に必死で問いかけた。
(お前、一体何者なんだ)
*
少し離れたところで男子の輪ができていた。
榛名は十人並みのペースでハードル走を終えて、彩花と談笑していたのだが、異様な雄叫びに振り返ったのだ。
男子のレーンでよっぽど良いタイムが出たのだろうか、1人をたくさんの男子が囲っていた。
感嘆の声が飛び交うなか、その中心にいた人物に焦点が合う。
三浦だ。
友人に頭を叩かれて、破顔していた。
(あんなくしゃくしゃに笑うんだ)
榛名は思った。