ささくれとレモネード
「言いたくなったら、いつでも聞くからね」
こういった年頃は誰でも悩みは多かれ少なかれあるものだと、堅い表情を気にしながら、佐伯は微笑んだ。
途端に電話が鳴る。固定電話だった。
佐伯がそれを受け取る。
聞こえてくる内容は、どうやら先日の健康診断のことのようだった。
欠席で受けられなかった生徒の対応について話し込んでいる。
それから間もなく、佐伯は、暫く職員室へ行ってくると告げた。
埋まっていたベッドに居た誰かにも声をかけたが、返事がない。
佐伯が足早に出ていくと、保健室は静寂に包まれた。
下腹部に不規則な鈍痛が走る。
このまま痛み止めが効くまで眠ってしまえば楽だろうにと思った。
けれども昨日見た夢のことを思うと、榛名は目を瞑るのがたまらなく怖かった。
仕方なくソファに腰を下ろしたまま、視線の先には大きな窓枠で型どられたグラウンドが見えた。
彩花もいるだろうか、と紺色のジャージ集団をぼんやりと見つめた。