ささくれとレモネード



外に出る頃には夕空が顔を覗かせていた。


手一杯の荷物を両手に下げた三浦の隣には、すっかり懐いた小春がいた。


身振り手振りを交えて何やら一生懸命に話しこんでいる。


今日は小春を連れてきて本当に良かった、心からそう思えた。


おかげで、兄としての一面を垣間見ることができたからだ。


幼い姿に榛名は顔を綻ばせながら、その二歩後ろを付いて歩いた。


勾配のある坂道を上りきってその先の下り坂を道なりに行けば、すぐに駅に辿り着く。


後ろから聴こえるエンジン音に沿って、道の端に寄る。立ち止まったところで小春が顔を上げた。



「ねえねえ、教えてほしいことがあるの」


そう言って、デニムのシャツの裾を引っ張った。



三浦が屈んで目線を合わせると、小春は問いかけた。


「こはるね、お兄ちゃんの名前しらないでしょ。だから教えてほしいんだけど」



アーモンドの形をした瞳には、幼い頃にしか見えない無垢な輝きが映っている。



榛名はそれをよく知っていた。


その瞳で懇願されるとついつい甘やかしてしまう、そんな経験が多々あるからだ。


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