ささくれとレモネード
名前など呼ばれていないのに、それが自分に掛けられたものだとすぐに分かった。
それは驚くほど聴き馴染んだ音程だったからだ。
その声が誰のものかを知っているのに、姿を見留めた瞬間、榛名は目を見開いた。
隣に腰掛けたのは、三浦だった。
「驚いてる」
自身の表情を軽く笑われたので、榛名は反抗するように口を開いた。
「だって昨日、委員やるだなんて、そんなの一言もなかったじゃない」
「今日決まったんだよ、こっちは」
『うちの担任、のんびりしてるからな』と野次を入れたのは、三浦の奥に座っている男子だ。
顔見知りではないが、おそらくもう一人の委員なのだろう、察した榛名は声を潜めた。
「運がなかったのね。お互いに」
すると、三浦は一瞬きょとんとして、首の後ろを掻いた。
「俺は別に、あみだくじとかじゃんけんで負けたわけじゃない」
言葉の真意が掴めずに、榛名は固まっていたが、視線を背けたのちに出てくる意訳は無かった。