ささくれとレモネード
三浦の背後から覗き込むと、血走った視線が三浦を貫く。
「何の相談もなしに勝手に辞めたと思えば、気まぐれに授業に出て何食わぬ顔して跳んでるじゃねえか」
三浦が引き離されて、上野の手元にぐっと近付けられる。そうして彼は囁いた。
「あの場で掴みかからなかったのを有難いと思えよ」
ただならぬ雰囲気に、行き場を失った榛名は掲示板に凭れかかった。
そうでもしないと立っていられなかった。
予測できない状況に、足は竦み、頭の中は真っ白になっていた。
「おい、何とか言えよ。お前のせいで代わりに走った後輩が怪我したんだぞ」
そこで、三浦はようやく口を開いた。
「どういう、ことだよ」
余りにも弱々しいその響きに、上野は目を剥いた。
それから形勢逆転したかとでも言うように、上野は早口で捲し立てた。
「お前が辞めた後、穴を埋めるために代表になった1年生のことだよ。何しろうちはインターハイの常連だ。高校入学して初めての大会で心の準備も儘ならないところで選手になったんだ。分かるだろ、俺達だって精神面のサポートは出来る限りしてやったんだ、でもな、」
一瞬苦々しく唇を噛んで、それからまた呟く。
その事実は、三浦の表情からみるみる血の気を奪っていった。