ささくれとレモネード
「本番で見事に転んだんだ。足がもつれて運悪く隣のレーンの奴と接触した。踏まれて折れて、全治2ヶ月だ」
そこで震える息遣いを堪えるように俯く。
鼓動が聴こえてきそうな静寂の中、上野はゆっくりと顔を上げた。
表面上はいつもの穏やかな表情に見えた。
けれどもそこには直視するのが辛くなるほどに、諦めにも似た哀しい光が宿っていた。
「インターハイには直接関係しない試合だった。でも、分かるか。お前の勝手な我が儘がこういう結果を招いた」
上野が腕の力を解くと、三浦は脆く崩れ落ちた。
「三浦くん!」
項垂れた三浦の元に駆け寄ると、目元は乱れた前髪で隠されているが、口は真一文字に引き結ばれていた。
厳しい顔で振り仰ぐと、狼狽えた上野が視界に映った。
冷静になってきたところでようやく榛名の存在に気づいたのであろう、口元を覆っている。
榛名は歯を食い縛りながら、上野を睨んだ。
彼が憎い訳ではない。ただ、ぼやけた視界を取り戻すためだった。
場違いな自分が我先に泣いてしまうなど、あまりにも無情すぎる。
それは三浦にとってもーーそして、上野にとっても。