ささくれとレモネード
「な、ななな何ですかいきなり!」
真っ赤な顔で叫んだ榛名に、目を瞬かせる。
「何って、泣いてたから――」
至極全うな対応をしただけだと言わんばかりの表情に、榛名の思考回路は完全にショートした。
「だ、だって、だってあんなこと、普通」
「無視した方が良かった?」
「そ、そうじゃなくて」
目が泳いだ先に、埋まっていたはずのベッドのカーテンが開いていた。
榛名はまさかという顔をしたので、彼は少々困惑しながら口を開いた。
「“助けて”って言ってるみたいだったから、背中が」
――それは、確かにそうかもしれない。
懇願していた。鳴り止まない怒号に、お願いだから許してほしい、と。
「何があったのか知らないけど、あんまり責めるなよ、自分のこと」
な、と後押しされて、榛名はひどく狼狽えてしまった。
そして、芯の部分がじんわりと暖かくなるのを榛名は感じた。それとともに、視界が滲んでしまう。
止まっていたはずの涙が溢れだす。止め処なく流れてゆく。
榛名はそれを否定しなかった。
彼も何も言わずに隣に居るだけだった。