ささくれとレモネード



「北村さん、申し訳ないけれど、念のため話を聞かせてもらうわね」


事情を覚っているのだろう千原に言われて、榛名は頷いた。


その場に居た人物として当然だと思った。



「そいつは関係ないです」


階上で両脇を支えられている彼が、声を振り絞った。


榛名の足が止まる。


「そいつは偶然そこに居合わせただけで、何も知らないんだ」


懇願するような目の前の人物に上野は振り返った。


そうして千原と榛名のそれぞれに目を配って、眉を下げたのだ。


「ーー三浦の言ったことは本当です」



取り残されたのは榛名、ただ一人だけ。


項垂れたその表情も分からないままの後ろ姿を見つめることしか出来なかったのだ。



確かに三浦の言う通り、榛名は部外者だ。



目の前で突然二人の男が掴み合って口論を始めた。


文字面で見れば大事(おおごと)かもしれない。


けれども彼らは成人しておらず、ましてや学校という小さな社会での出来事だ。


教師にとってはたまのトラブルだと思われても仕方がないことなのに、そこには榛名がかつて経験したことのない怖さがあったのだ。


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