ささくれとレモネード



いつだって冷静で、どこか掴めなくて、取り乱すことは無縁だと思っていた人物はあの時、震えていた。



『殴れよ』


守らなければ、そう反射的に伸ばした手は簡単に振り解かれてーー。


『そいつは関係ないです』



(分かってる、分かってたけど、)


三浦に拒絶された数分間が、これほど胸を締め付けるなんて、考えもしなかった。



あの日、榛名は帰路の終着点で立ち止まった。


自分の影が余計に情けなく見えたのだ。


すっかり気を落としたシルエット。


人は影だけでも表情が分かるのかーー。


苦笑しめ息を漏らせば、途端に込み上げてくる気持ちがあった。


榛名は、よく知った庭にぽたぽたと涙を落とした。


それからぐちゃぐちゃになった顔を勢い良く拭って、ひとつ深呼吸をした。



息を吸って、吐いて。


それから、手を掛けた我が家のドアノブを回した。



「ただいま」






あれから三浦の姿を見かけることはなく、一週間が経とうとしていた。


昼休みには購買を経由した瞬だけが教室にやってくる。



彩花が三浦の様子を尋ねると、瞬は一瞬顔を上げてから、再びパンを齧った。



「ここのところ、ずうっと機嫌悪い。人を寄せ付けない雰囲気がびしばし伝わってきてさ。まあ、少し放っておくのがいいと思うよ」


その口調は決して呆れたものではなかったけれど、扱いを知った友人とはいえ、瞬も困惑しているように見えた。


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