ささくれとレモネード
「仲直りなんてもう長いことしてないなあ、喧嘩は割と苦手なほうだしさ」
それは対一人ではなく、対一般への回答だ。
上野の暴走を目にした榛名としては、最後の一言は皮肉にも聞こえた。
「喧嘩が得意な人なんて、いるかな」
本音を細々と溢すと、上野は小さく吹き出した。
「それもそうだな。ごめん。言い方間違えた」
その表情を見て、ざわついた気持ちがしぼんでゆく。
今は、少なくとも”クラスメイトの上野くん”だった。
榛名が知っている上野は些細なことでも素直に立ち返る人で、その空間を取り巻く雰囲気とても敏感だ。
合わせて体育会系ならではの視点は、委員として適任だ。
彼の心遣いの細やかさは瞬が言っていたように、学年間でも周知の事実だった。
だからこそ。
なお一層のこと、三浦との間にある確執は、想像以上に深いのかもしれない。
上野は彩花の席に腰掛けた。
椅子の向きを変えて、榛名と向かい合う。
真っ直ぐに見つめられても、榛名は決して目を反らさなかった。
すう、と上野が息を吸い込んだ瞬間、窓の外の運動部の掛け声がやけに響いた。
「北村さんに怖い思いさせたよね。ごめん」