ささくれとレモネード
榛名は目を見開く。
上野は眉を下げて、それから俯いて、でも、と付け加えた。
「三浦に言ったことを撤回するつもりはないんだ」
何か言いたげな榛名を遮るように、上野は続けた。
「あいつ、本当に何も知らなかったみたいだけど事実には変わりないし。それに、」
膝上にある拳は固く握られていた。それをゆっくりと開くと、上野は呟いた。
「三浦は能力のある奴なんだ。だからこそ、何も言わずに辞めたのが、悔しかったんだ」
唇を噛み締め押し黙る。
それは紛れもなく、秘められていた本音だった。
そしてそれは、榛名が言えなかった疑問をようやく唇に乗せるための勇気をくれた。
とてもシンプルで一直線だ。けれどもそれは、第三者のみが投げ掛けられる疑問。
「また、三浦くんと一緒に走りたいと思ったり、する?」
目の前の俯いていた顔が上がる。
心底驚いたような顔をして、それから息を吐いた。
「どうだろうな。今更戻ってきても、チームの中には良い気がしない奴も勿論居ると思うよ」