ささくれとレモネード
三浦について、榛名は知らないことが多すぎた。
想像ではとても埋め尽くせないほどの秘密が、そして過去が、彼にはあるのかもしれない。
けれども榛名は知っていた、彼の優しい眼差しを。
半ば狼狽えていたような抵抗が収まると、榛名は両の手のひらを三浦の頬に添えた。
はっとするような顔と目が合うと、露に濡れた瞳がきらきらと蛍光灯を反射させていた。
「また、泣かせちまった」
そう呟いて、心底悔しそうに眉間に皺を寄せられた。
「これで3度目だ」
その瞬間言い様のない愛おしさに吸い寄せられて。
「4度目よ」
初めて出会った日も、同じ場所で同じ様に泣いていたのだから。
ーー他人の痛みにこんなに敏感なひとが、乱暴なわけ、ないじゃないか。
どちらからともなく、哀しみでくしゃくしゃになった顔を近付けた。
「ーーハル、」
馴れない呼び方を聞き取る暇などなかった。
榛名はその唇を塞いだ。
その暖かさに震えていたのは、彼女の方だった。