ささくれとレモネード
じいちゃんは背中を向けて、なかなか居心地が悪そうにしていた。
母はそれに見て見ぬ振りをして、勝手知ったる実家で、自分で淹れたお茶を静かに啜った。
俺と笑里はその間に挟まれて、菓子をそっと口に含んだ。
「あんなところに実が生ってる」
それは鶴の一声、いや、笑里の一声だった。
気まぐれに雲の隙間から覗きこんだ太陽に誘われて、じいちゃんは笑里を庭へと連れてゆく。
愛嬌を振り撒く孫に庭のこだわりを話し出したのが、窓を隔てていても表情で分かる。
室内から見ていた俺と母は揃って苦笑した。
俺たち孫が、二人の距離を取り持たなければなくなったのには、複雑な理由がある。
母は、俺が八歳、笑里が四歳の時に離婚した。
父はとにかく酒癖が悪かった。
少しでも気に入らない態度を示すと、暴力を振るった。
仕事から帰ってきて機嫌の悪い時には、突然大声を上げることもあった。
毎晩ビール瓶から手を離すことはなく、気性の激しい持ち主で、アルコールが入ると尚の事制御できず警察沙汰になることも幾度あったことだろう。