ささくれとレモネード
俺や笑里にとって、最低の父親であるということには間違いなかった。
この世にはもういない、ということを改めて自覚した時、憎しみを通り越して不思議と何も感じられなかった。
翌朝に目が覚めれば、いつも通り母が居て、『おはよう』と言った。
目を擦りながらも、変わらない日常に、母と笑里が居るという日常にほっとした。
それだけだった。
じいちゃんは結果的に、自分の娘を自動返却されたのだ、それもろくでもない男に一番望んでいない結末で。
後ろめたさを感じているのだろうーーふとしたきっかけがあれば、母との間にあるぎこちなさというのも解消できそうなのだけれど。
それも一筋縄でいかないのは、おそらくもうひとつ、ある事件が起因していた。
そしてそれは、俺自身も例外ではなかった。
*
笑里はここ数年で本当に成長したな、と思う。
身長もそうだが、精神的にもそうだ。周りの空気というものに敏感になってきた。
じいちゃんが夕食の準備をし出したので俺も立ち上がると、後ろから背中を叩かれた。
「あたし、手伝うから。瑛人はいいよ」
妙に大人びた口調で、この前の電話口で話していた人物と同じだろうかと、俺は首を捻った。