ささくれとレモネード
台所へと消えた背中をよそに、振り返ると母が洗濯物を畳んでいた。
いつの間に取ってきたんだーー正直余計なお世話だとも言えず、手持ちぶさたになった俺は取り敢えず腰を下ろした。
母も手が空く環境はわりかし苦手な方だったと思うことにして、何気なく呟いた。
「そういや、こっちに"ハル"が居たよ」
反応がない。ちらりと見遣ると、靴下を手に持ちながら斜め上を見つめていた。
人が何かを思い出そうとしている合図だ。
黙ってそれを眺めていると、急に目を丸くした。
「ハルちゃんって、まさかあのハルちゃん?」
信じられない、と言ったような顔でこちらを見ている。
当然だろう、俺だって夢にも思っていなかったのだから。
「同じ高校だった」
「うそ、」
「クラスが違うから今まで全然気付かなかったんだけどさ、本人だった」
あらあらまあまあ、と言いながら手を止めてしまっている。
仕方なく洗濯物の山からTシャツを摘まむと、嬉々とした表情で袖を引っ張られた。
「それでそれで、ハルちゃんびっくりしてたでしょう、」
母が思い浮かべているであろう幻想に、俺は苦笑した。