ささくれとレモネード
「何よ。なんで笑ってんの」
Tシャツを箪笥の横幅半分に折り直す、これがすっかり板について、畳んだ洋服は姿勢良く積もっている。
「俺の事、覚えてなかったんだ」
「そうなの?」
「昔の事だし。多分覚えてたとしても、ハルの中では"いじめられっ子のアキちゃん"なのかな」
襟元の皺を直して側に置く。
そうして、ほろ苦い昔の出来事に思いを馳せた。
*
それは正式に母子家庭となってから、居住地を転々としていた頃の話。
父が再び目の前に現れることを恐れた俺達は転校を何度か経験した。
最初に転校した時の事だった。
父に殴られたこめかみは何針か縫って貰っていたから、俺は散髪をしばらく嫌っていた。
傷が見えてしまえば、好奇心旺盛な友人に質問攻めに遭う。それを見越した母も寛容だった。