雨音に隠した残酷
雨空とわたしたちの間にあった傘がなくなったことで、聞こえる雨の音が少しだけ変わったような気がした。
どこか遠くで響く、何もかもを流し去ってくれそうな雨の音。
相変わらず降り続ける残酷な雨は、大垣くんだけはなくわたしの髪も体も、すべてをその音の中に吸収していく。
「……み、美希?」
戸惑ったように揺れる声が、わたしの鼓膜を刺激する。
すぐ傍で聞こえるそれがどうしようもなく切なくて、どうしようもなく悲しい。
だけど何よりも、大切にしたくなる。
大垣くんの厚い胸板にぴったりと頬をつけて、その大きな背中を抱き締める腕に力を込めた。
「……ひとりじゃ、ないよ」
「……」
「大垣くんは、ひとりじゃないよ。大垣くんがお姉ちゃんをどれだけ好きで、どれだけ今、傷付いているのかも……。全部、わたしは知ってるよ。だから……」
名残惜しい気持ちを抱えながらも、そっと大垣くんから離れて顔を見上げた。
驚いて泣きやんだ彼が、わたしのことを見つめる。
大垣くんの瞳に映っているのは、わたしだけ。
そのことに少し嬉しさも感じてしまうなんて……わたしも、相当残酷なのかもしれない。
「……その悲しい気持ち、ひとりで抱え込んで泣かないで。その悲しみ、わたしにも背負わせてよ」
――大垣くんが、好きだから。
だから、あんな最低な人のせいでいつまでも悲しまないで。