雨音に隠した残酷
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「あーあ、二人ともびしょ濡れだな」
「本当だね。見事に濡れちゃった」
屋上から校舎の中に入って、お互いの姿を見て苦笑いした。
二人とも、全身が見事に濡れてしまっている。
ずっと前から雨の中に居た大垣くんは、もはやシャワーを浴びたみたいになっていた。
途中から傘を落として濡れ始めたわたしでさえも、よく見ると結構濡れているぐらいだ。
あれほど広がっていたわたしの天然パーマの髪の毛も、雨水を吸い込んで真っ直ぐに伸びている。
あいにくカバンは教室に置いてきてしまったので、拭くものさえない。
こんな状態のままで教室に帰るの、大変だろうなぁ。途中で誰かに会わなきゃいいけど……。
これからのことを憂鬱に思っているわたしの隣で、大垣くんはワイシャツの端を雑巾みたいに絞っていた。
わたしも真似して、セーターを絞ってみる。だけど濡れている見た目に対して、そんなに雨水は落ちてこなかった。
「美希、ありがとな」
突然の言葉に何事かと思って顔を上げると、大垣くんがわたしを見て穏やかな表情をしていた。少しだけ、吹っ切ったような顔だった。
「俺、美希が来てくれなかったら今もずっと雨に濡れてたと思う。でも美希のおかげで目が覚めた。だから……ありがとな」
「……お礼なんていいよ。大垣くんが悲しまないなら、わたしはそれだけでいいんだから」
そう言いながら、気恥ずかしさで視線が足元を彷徨う。
さっきは大胆に抱きついて、もっと偉そうなことを言っていたのだから、今さらなんだけど。