雨音に隠した残酷
「ふは、わかった。じゃあ、もう悲しまないようにするわな」
ニッと八重歯を出して、大垣くんは得意気に笑っていた。
でもその表情は言葉のわりに、とても無理をしているように見えて仕方がない。
だけど大垣くんが笑ってそう言うものだから、わたしはそれ以上干渉するようなことは言えなかった。
黙り込むと、大垣くんがポツリポツリと話し始めた。
二人きりの静かな階段の踊り場に、彼の言葉は雨のように落とされる。
「何となく……だけどさ。美保に本気にされてないのはわかってたんだ。まぁ、それは教師と生徒っていう関係のせいだと思ってたんだけど……。俺、自分でも驚くぐらい美保のことが好きなんだよ。だから俺に優しくしてくれる美保の気持ちは本気だって信じたくて、そのことに気付かないフリしてた。だから美希が忠告してくれても、別れるなんて答えは出したくなかったんだ」
大垣くんは苦しそうに言って俯く。
黒髪の毛先から、ポタポタと水が落ちた。
「……でも、バカだよな。美希が言ってくれることが一番正しかったのに、それを拒むなんて。おまけに美保は別のやつと結婚するしさ。俺は結局、美保の気持ちなんて何にもわかってなかった。ほんと俺って、バカだよ。美希の言うこと聞いて早く別れておけば、こんなに傷付くこともなかったのに……」
さっきまで浮かべていた笑顔は、やっぱり無理していたものらしくて。
大垣くんが言葉を発すれば発するほど、その表情は元通り苦しそうなものに変わっていく。
それでも、涙だけ落ちないことが救いのように思えた。