雨音に隠した残酷
「大垣くんは、バカなんかじゃないよ」
首を横に振って、はっきりとそう言う。
見えない涙を掬うようにもう一度言ってから、ゆっくりと言葉を選んだ。
「大垣くんがバカなわけないよ。ただ、一途にお姉ちゃんが好きだっただけだもん。わたしは大垣くんにお姉ちゃんと別れるように散々言ったけど、大垣くんはそれでもお姉ちゃんのこと諦めなかった。それだけの覚悟を持ってお姉ちゃんを好きになった自分のことを、バカだなんて思わないでよ。わたしは大垣くんのこと……すごいと思うよ」
大垣くんの友達として、大垣くんの好きな人の妹として。
ずっと、あなたの傍に居たから。
その気持ちが生半可なものじゃないことは、ちゃんと知ってる。
優しい瞳でお姉ちゃんのことを話してくれることに嫉妬したり羨ましくなってしまうほど、その気持ちの大きさは理解してるつもりだよ。
「結果的に大垣くんが傷付いてしまったけど、それは大垣くんのせいじゃない。だから、そんなに後悔しないで……」
大垣くんをこんなにも悲しませているのは、お姉ちゃんのせいでもあるけれど。
……きっとわたしも、彼を傷付けた人になるのだろう。
いくらお姉ちゃんに口止めされていたとはいえ、真実を教えてあるべきだった。
本当に大垣くんのことを大切に思うのなら、最悪な結末を迎えるのを少しでも避けてあげるべきだったのかもしれない。
今となってはもう、叶わない願いだけれど……。