雨音に隠した残酷


大垣くんは頬に落ちた雫を手の甲で乱暴に拭うと、口角を上げて意思がこもった声で言った。


「……大丈夫だよ、美希。俺、美保を好きになったことは後悔してないから」

「……そっか」


清々しさを含んだ表情で見られて、嬉しい気持ちの反面、やっぱり複雑だった。

後悔していないという言葉の裏側で今もなお、お姉ちゃんへの気持ちが燻っているのが垣間見えたような気がしたから。


「……なぁ、美保の旦那さんってどんな人? 昨日、結婚式だったんだろ?」


意を決した声での突然の質問に、戸惑いと驚きで声が出なかった。
その話は避けた方が良いのかと思っていたものだから、余計に。

確かに昨日は、お姉ちゃんの挙式だったけど……。
わざわざ、自分を捨てて選んだ人との話を聞きたいの?

声にはせずにそんな問いを瞳で投げかけるけど、大垣くんはわたしの言葉を待って黙っていた。

それを聞くことが、大垣くんのけじめに近いものなのかもしれない。

だったらわたしは、真実を告げるべきだ。彼の傷口が開いてしまわないか心配になるけど、それが彼のためになるのなら。


「……旦那さん、すごく優しい人だよ。ちょっと頼りない雰囲気もあるんだけど、お姉ちゃんのことを好きな気持ちは滲み出るぐらいわかった。……お姉ちゃんはその人の隣で、幸せそうに笑ってた」


お姉ちゃんも旦那さんもスタイルが良いから、純白のウエディングドレスとタキシードがよく似合っていた。


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