雨音に隠した残酷


優しい瞳がすぐ傍で、真っ直ぐわたしを見ていた。


「それに……、美希もだよ。俺は美希にも、笑っていてほしい。さっきは俺のことを考えて泣いてくれたんだと思うだけど、美希まで俺のせいで悲しまなくていいんだ。その気持ちは嬉しいけど。俺は美希が傍で笑ってくれてる方が、ずっと元気貰えるんだよ。だからさ、俺のためにそんな顔すんなって!」


大垣くんはニッと笑って、それから頬を掴んでいた手を離してくれた。
頬をさするフリをして、かっと赤くなる顔を隠す。

何か……敵わないよ、大垣くんには。

わたしの方が大垣くんを元気付ける立場のはずなのに、その言葉にわたしが励まされてるよ。

でもわたしを見て笑ってくれる彼を見たら、わたしも少しは彼の役に立てたのかな……って。

自惚れかもしれないけれど、信じたくなった。

だから照れくささが残る中でも、大垣くんに笑顔を見せる。
今日一番の、満面の笑みを。

大垣くんもそれに応えるように、笑ってくれていた。


「さーて、風邪引く前に帰るとするか!」

「そうだね!」


腕を天井に掲げて体を伸ばした彼に続いて、行きは冷たく感じた廊下を二人で歩く。

雨にすっかり濡れた体はまだ冷たいままだけど、もうその冷たさに心は痛まない。


弱まった雨音は、どこか優しく校舎に響いていて。
笑ってくれる彼の横顔は、希望が宿っているみたいに輝いて見えた。



END


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