雨音に隠した残酷


6時間目の授業のあとのホームルームまで、先生は指輪を着けていなかった。だけど照れた様子で頬に当てた左手の薬指に、今はしっかりとシルバーの細めの指輪がはまっている。

愛の証を身に付けて、幸せ絶頂の笑顔を浮かべるその姿に、胸がむかむかした。腹立たしい気持ちさえ沸き上がってきて、ついつい眉間にしわが寄る。

おまけに先生の天然パーマの髪はわたしとは違って、この時間もふわふわの綺麗なウェーブを保っていたから、余計に気分が悪くなった。

美保っていう名前に相応しく、さすが美しさを保つことは怠らない。

……まぁ、そんなの、見た目だけだけど。

あの女の残酷で腹黒い中身を知っているのは、きっとわたしだけだろう。


――いや、違うか。

今日、あの彼も知ってしまった。

とても最悪で残酷な裏切りとともに。


教室前方の人だかりは、美保先生の旦那さんとのなれそめ話に興味津々な人達で溢れかえっている。
一応そこに注目するけれど、やっぱりそこに彼の姿は見当たらなかった。

もう、帰ったのかな……。

そうであってもおかしくはないけど、教室の彼の机の上には乱暴にカバンが置かれたまま。つまりまだ、彼は学校に居る。

ならば、行き場所は一つだ。
おそらく彼は、あの場所に向かったのだろう。


< 2 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop