雨音に隠した残酷
「……」
友達が夢中で人だかりに混ざっているのを良いことに、わたしはカバンから折りたたみ傘を取り出すと、すぐさま彼のもとへ向かった。
祝福の輪から追い出されてしまった彼のもとへ。
・
選択科目などで利用する特別教室があるだけの第二校舎は、人の気配が少なくてとても静かだった。
だから外の雨の音が、わたしの足音よりもよく響いている。
さっきまで居た第一校舎とは違い、肌に触れる湿り気がない。梅雨特有の暑さもなく、むしろ寒いと感じるぐらいだ。
腕捲りしていたワイシャツとセーターの袖を思わず下ろす。
彼も、この冷たい廊下を歩いた。
そう考えると胸がギリギリと痛んだ。
わざわざ自ら、こんな寂しい空気が漂った場所に来なくてもいいのに……。
だけど彼は、きっとあの場所に居る。むしろこの廊下よりも冷たい場所に、一人ぼっちで居るのだろう。
何か、救いを求めるように。
そんな容易く浮かんでしまった彼の姿が不憫で、わたしは目の前に現れた屋上に続く階段を駆け足で上った。
重い鉄の扉の前に立ち、焦り出した呼吸と鼓動を落ち着かせる。
胸の前で持ってきた傘をぎゅっと握り締めて、扉の上部にある小窓から外の世界を覗き込んだ。
「やっぱり居た……」
雨を落とす空も、濡れて色が濃くなったアスファルトの地面も。
すべてが灰色の世界の真ん中に、彼の背中が見えた。