雨音に隠した残酷
ギイィ……。
ゆっくりと扉を開けると、大袈裟な音が響いた。
さっきまでよりもさらにひやりとした空気がわたしを出迎える。
ポツポツと降り続けている雨が、微かな風で校舎に入り込んできた。
屋上は完全に、雨に支配されていた。
湿った空気。アスファルトに染み込んだにおい。視界に幾重にも落とされる、灰色の無数の線。
冷酷な静けさを含み、空間を埋め尽くす雨音。
何もかもが雨のものになったその場所に、彼はこっちに背を向けて立ち尽くしていた。
しかも、傘も差さずに雨ざらしのままで。
髪も、体も。
全身を濡らしている姿は、遠くから見ても分かるほど悲しみに覆われていた。
いつもならしゃんと伸びている背中も、心なしか縮んで小さく見える。
……バカだよ。
そんなに濡れたって、何も彼の傷など癒してはくれないのに。
むしろ余計な冷たさに、追い打ちをかけられてしまうだけだよ。
それでもきっと、ここは彼にとって彼女との思い出の場所であることには変わりなくて。引き寄せられずにはいられないのだろう。
どんなに残酷なことを、その彼女にされたとしても――。
水色の折りたたみ傘を広げて、雨の中に飛び込む。
傘の表面が雫を受け止めて、パラパラと音を立てた。