雨音に隠した残酷
すっかり濡れて水たまりが出来たアスファルトの上を歩くと、みるみるうちに上履きが濡れていく。風に流される雨のせいで、制服も少しだけ濡れた。
でも、そんなの大したことない。
何もかも濡れている彼に比べたら、全然大丈夫だった。
歩くたびにパシャパシャと雨水がはねる音がするというのに、彼はちっとも振り向こうとしない。雨音よりも大きいそれは、聞こえているはずなのに。
彼の背後で足を止める。
表情は見えないけれど、向けられている背中が……泣いているようだった。
彼が負った痛みの大きさが伝わってくるみたいで、わたしの胸までギリギリと痛んだ。
その背中を抱き締めたい衝動にかられるけれど、伸ばしかけた腕をそっと胸の前に戻す。
代わりにもう1歩だけ近付いて、彼の体を傘の中に入れた。
小さな折りたたみ傘では二人の体は完全に入りきらなくて、わたしのセーターに水滴が乗っかって染み込んでいく。
「……大垣(おおがき)くん、風邪引いちゃうよ」
彼が欲しがっているような上手い言葉は浮かんでこなくて、そんなありきたりなことを口にした。
それでも彼は頷くどころか、何一つ反応さえしてくれない。
傷付けてまで彼の心を離さないでいる彼女の存在が、無性に煩わしい。
それがとても嫌で、悲しくなる。