雨音に隠した残酷
ただ、わたしは、大垣くんに振り向いて欲しくて。
いつまでもあの人のせいで、悲しんでほしくなんかなくて。
気付けば大垣くんの腕を掴んで、強行突破でこっちに振り向かせていた。
されるがままに動いた、大きいのに頼りない彼の体。
綺麗な肌の顔にはたくさんの水滴が滴り落ちていて、それが雨なのか涙なのかは、わたしにはわからなかった。
おぼろげな瞳が、やっとのことでわたしを見る。
でもそれはわたし自身を見ているのではなく、わたしに重なる彼女の面影を探しているように見えた。
「……み、ほ?」
微かに開いた大垣くんの唇から漏れた名前。
……ねぇ、違うよ。
わたしの名前は美希(みき)だよ、大垣くん。
みほ……美保は、わたしのお姉ちゃんだ。
わたしと大垣くんのクラス担任で、昨日結婚した美保先生で。
大垣くんは……、お姉ちゃんの浮気相手だった。
ただ大垣くんはさっきの結婚報告まで、自分が浮気相手だったことは知らない。
お姉ちゃんは大垣くんには何一つ告げないまま、普通に付き合っていたから。
しかもその関係に終止符を打つ方法が、クラスでの結婚報告だなんて。
あの女は、最初から最後まで残酷だ。
せめて、結婚する前にちゃんと別れておけば。
せめて、中途半端な気持ちで付き合っていなければ。
せめて、真実を彼に告げておけば――。
すっかり雨に濡れて温度を奪われた腕を掴んだまま、弱りきって儚く揺れる瞳を見ていたら。
……そう思わずにはいられない。