雨音に隠した残酷
「……あぁ、美希か」
やっと目の前の“わたし”を認識して、大垣くんが溜め息のようにそう呟いた。
残念そうに名前を呼ばれて、今この瞬間になってもお姉ちゃんがここに来てくれることを期待していたことがわかる。
そう期待したいほど、大垣くんはお姉ちゃんを信じきっていたんだ。
それなのにお姉ちゃんは、いとも簡単に大垣くんを切り捨てた。
ムカついて許せない。
二人の問題なのかもしれないけど、やっぱりわたしにはどうしても口出しせずにはいられない。
もどかしい感情を、目の前に彼にぶつけてしまう。
「あの女はやめておけって、言ったのにっ……!」
わたしと大垣くんの頭上に掲げた傘を持つ手が震えて、雨に触れる面積が増えていく。
……全部、わたしだけが知ってたんだよ。
大垣くんが、お姉ちゃんと付き合っている秘密を教えてくれたから。
『美希は友達だし、美保先生の妹だから』
先生と生徒が付き合っているなんて、バレたらとても駄目なことなのに。そう言って、大垣くんはわたしだけに二人の関係を教えてくれたんだ。
こっそり話してくれたときの笑顔は、本当に嬉しそうだった。幸せそうだった。
秘密の関係なんてまったく壁に感じていないぐらい、本当にお姉ちゃんが好きなんだって思えたの。