雨音に隠した残酷


二人が付き合っていること。
大垣くんは本気でお姉ちゃんを好きなこと。
でもお姉ちゃんは大垣くんを、浮気相手としてしか見ていないこと。

その残酷な真実を、どうしてわたしだけが知ってしまっていたんだろう。


「わたし、だから言ったのに……。別れないと、大垣くんが傷付くだけだって」


傘を持つ手の震えが止まらない。

あんなにもお姉ちゃんが好きで、幸せそうなオーラを放っていたというのに。
笑顔を奪われて悲しんでいる姿を見るのが、とてもつらい。

わたしはただ、大垣くんが傷付いて欲しくなかっただけなのに……。

大垣くんの頬に、次々と雫が滑り出す。
傘の下で瞳から落ちるそれは、確かに涙だった。

わたしたちの足元にある水たまりに波紋が出来る。

一度涙が落ちたことで、大垣くんは堰を切ったように泣き出した。目元を手のひらで覆い隠して、苦しそうに言葉と嗚咽を漏らす。


「……っ、うぅ、ほんと、だな。美希の言うこと……っ、聞いておけば、よかったっ……」

「大垣、くん……」


大垣くんの肩が小刻みに震える。

ポツポツと、音を立てて。
傘やわたしたちの体を叩くように強く落ちる、冷たい雨。

その音の中に、大垣くんの泣き声がこだまする。

お願いだから、そんなにも悲しそうに泣かないでよ……。

そう思ったときにはもう、腕を伸ばして目の前の彼のことを抱き締めていた。

手のひらから滑り落ちた傘が水たまりの上に落下して、小さな水しぶきを上げる。


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