*Promise*~約束~【完】
「じゃあ、エリーゼも罪人だったんだね」
「何をしたかは聞いてないけど、最初会ったときは目付きが怖くておっかなかったなー」
「悪かったわね」
「あは、聞かれてた」
「私はただ人を殺しただけよ」
リオの部屋のドアを開けて入って来たのはエリーゼだった。そう言えばおやつタイムになっていたことを思い出す。
エリーゼは突拍子もないことをさらりと言ってのけてから、紅茶とパウンドケーキを並べた。しかし、二人分しかない。
「俺の分?」
「笑えない冗談ね」
「うわー、絶対怒ってる」
「私は元は暗殺屋。そのときに政府に見つかって逮捕されたのよ」
「暗殺?だからあんな目付き「ここで撃ってもいいんだからね」
「わー!止めて止めて!」
ルゥが相槌を打って再度言おうとすると、エリーゼはスカートのひだに手を突っ込んだかと思うと拳銃を取り出した。
銃口を向けられてルゥは慌てて両手を上に挙げた。
「そんなのいつも持ち歩いてるの?!」
「そうよ。気づかなかったでしょ?」
「さすが元暗殺屋」
「褒めてもケーキあげないから」
「マジか」
「マジよ。さあとっとと出て行ってちょうだい。これからおやつタイムなんだからね。それに話は終わったでしょ」
「うん。じゃあおいとましようかな」
「ルゥ、ありがとう」
「どういたしまして。こんな俺たちの話が聞きたいんならいつでも話すよ」
ルゥはリオにウインクをして見せると、ドアを開けて出て行った。そのドアをエリーゼがバタンとわざわざ閉める。
相当目障りだったのだろう。
「あんなやつ、こんなところに来る理由なんてないじゃないの」
「私が頼んだのよ」
「ダースに聞けば良かったのに」
「ルゥの方が暇かなって」
「ざまあみろルゥのやつ。暇人扱いされてやんの。きっと廊下で聞き耳立ててるだろうから言ってあげるわ」
「え、そうなの?」
「私は敏感だからね。気配は大体わかるわ」
「暗殺するにはそれほど用心しないといけないんだね」
「あんたはこうなっちゃダメよ」
無理無理、と首を横に振る。到底なれないだろう。
それに、暗殺なんてリオには高度すぎてできるわけがない。
「銃だって持ったことないのに無理だよ」
「ちなみに、ライナット様は弓矢の名手よ」
「そうなの?そう言えば最初会ったとき弓矢持ってたな。狩りでもしてたの?」
「いいえ、森の中に練習場があるのよ。練習の休憩中に会ったんじゃない?」
「そうかも」
よく思い出してみれば、獲物を入れるような袋は持っていなかった。
「あ、ライナット様の武勇伝教えてあげましょうか」
「武勇伝?そんなのあるんだ」
「ライナット様が十七のときの話よ。これは北の塔にいる人しか知らないわ」
うきうきと目を輝かせてエリーゼは言った。リオはそれを嬉しく思った。
なぜなら、北の塔にいる人たちの仲間入りをしたように感じたからだ。秘密を教えてくれるなんて、仲間意識がなければしてくれるはずがない。
そのことが、ひどく嬉しかったのだ。
「ライナット様はね、大会で優勝したことがあるのよ」
「凄いねそれ!でもそれのどこが秘密なの?」
「匿名で、しかも顔を隠して出場したの」
「そんなのできるわけないじゃん」
「優勝候補に上がっていた人がね、嫌がらせでわざと骨折させられたのよ。それで、会場まで来てたのに出場できない状態だったの」
「酷い……」
「でしょう?でも賞金が大金だったから不思議でもないわ。呆然としていたその人を見つけたのがルゥで、ライナット様を独断で出させようとしたの」
ルゥは勝手にその優勝候補の出場を受付に告げた。しかし、出るのはライナット。
つまり、優勝候補の名前でライナットは出場することになったのだ。ライナットはもちろん勝手なことを、とため息を吐いたが面白そうだったため出場することにした。
マントを着てフードを目深に被り、名前を偽って出場したライナット。もちろん、骨折させたやつらは驚いた。そして誰なのかつき止めようとしたが、そこはライナットの部下たちがお仕置きをした。
そいつらは体調不良により出場を断念。敵はいなくなった。
ライナットは順調に勝ち進み、とうとう決勝にまで進んだ。結果は圧勝。的に全ての矢を命中させた。
その後に授賞式があったが、そこに現れたのは骨折した優勝候補が。
しかし、その腕では矢を放つことは不可能なのは一目瞭然。そこで、誰が出ていたのかを問いただされたが、優勝候補は本人の名前すら知らなかった。
それはそうだ、ルゥはライナットの名前も正体も何一つ教えていなかったのだから。そのときは動転していて優勝候補も聞くのを忘れていたのに気づかなかったのだ。
ということで、その大会の賞金は優勝候補の手に入ったが、真の優勝者は未だに判明されていない。
「その大会見たかったかも」
「面白かったわよー。周りの動揺と言ったら後ろめたさを感じるほどだったわ。でもライナット様は言うな、の一点張り。だから私たちだけの秘密になったの」
「へえー、良いこと知ったな」
「その謎の優勝者を人は、『キラー』と呼ぶ」
「『キラー』?」
「ええ。こんなやつが人を狙ったら皆死んじゃうってこと」
「なんかヤな感じ」
「実際、人を殺せなくもないんじゃない?やらないだけよ」
エリーゼはこれで話は終わり、といった感じで片付け始めた。
話に花が咲き、いつもより紅茶を飲んでしまったリオはお腹がたぷたぷだった。
いい具合に眠気も漂っている。
「ちょっと寝ようかな」
「あんたは赤ちゃんなの?飲みすぎよ」
「赤ちゃんじゃないよ」
「冗談よ。おやすみ」
「おやすみー」
リオは眠りについた後に夢を見た。
誰かが矢を放つと歓声が沸く広い場所。誰かの後ろにリオは座っていて、その背中を誇らしげに見ているのだ。
太陽が、眩しかった。