*Promise*~約束~【完】
「あんた、なんでそうお喋りなわけ?」
「そう?」
「そうよ。ライナット様との関係をリオに教えるなんて」
エリーゼが部屋から出ると、ルゥが待っていた。しかし、彼女はいきなり責めるような口調で問いただす。
「俺も最初は本人に直接聞けって言ったんだけど気が変わったのさ」
「どうして?」
エリーゼは不機嫌そうに首を傾げた。
「なんかさ……意固地になってるのに拍子抜けしたんだ。どういう手を使ってライナット様に取り入ったのか警戒してたんだけど、裏表のない女の子で驚いちゃって。エリーゼもそう感じなかった?」
「……感じなかったと言えば嘘になるわ」
エリーゼは少し考えてから慎重に答えた。これまでリオと接してきて感じたことは、清々しいほどに物怖じしないということ。
しかし、肝が座っているように感じるのは確かなのだが、たまにその心の不安を垣間見るときがある。でも無理をしてそれを隠そうとしているわけでもない。
だから、放っておけないのだ。心の中を知りたくて。
「考えてることがわかるようでわからない。そこがライナット様と同類みたいな感じだよね」
「確かに。ライナット様もあと一歩のところなのにわからないわ」
「それが意識的なのか天然なのかはわからないけど、掴み所がなくて時々焦る」
その言葉にエリーゼはうんうんと頷いた。
掴み所がないゆえに知りたくなるし、自分のことを知ってほしいとも思う。早く仲良くなりたい、と焦ってしまうのだ。
置いていかれるような気がして。
「なんだかんだで似てるよね」
「まったく違うのにどこか似てる。だからついついお節介をしちゃうのよ」
「お節介、か……そうだね。それがさっきの質問の答えかな。んじゃ俺はそろそろ」
エリーゼの返事を待たずにルゥはどこかへと行ってしまった。廊下で一人佇む。
窓から外を見れば、つがいの鳥たちがちょうど上へと飛んで行くところだった。太陽の光に目を細める。
「私たちはこうやって、二人の行く末を遠くから見ることしかできないのよね」
そのうち、手の届かないところへと昇って行ってしまうのではないか。
そして、見えないところに消えてしまうのではないか。
ライナットは何かを企んでいるようだが、リオは何も考えずに日々を過ごしている。彼女がその何かに巻き込まれてしまうのも時間の問題だ。
巻き込まれてしまったら、リオはどうなってしまうのだろうか。命を狙われたら彼女は逃げてしまうかもしれないし、逆にライナットの隣に寄り添うかもしれない。
エリーゼには後者だと思うのだが、断定はできない。人間は窮地に立たされたときに、本領を発揮するか尻尾を巻いて逃げるかしか選択肢がない。
もし逃げてしまったら、自分たちがライナットの隣に寄り添うしかない。あるいは、この身を盾にして護りきらなくては。
彼には恩がある。自由を手にできたのは彼のおかげだ。最初こそはこの世に恨みを持っていたが、彼と生活しているとそんなことはどうでもよくなった。
だから、いつでもここから発っていいのだ。でもそれをしないでいるのは、彼の行く末を見届けたいから。残れ、と言われれば喜んで従うし、去れ、と言われれば潔く立ち去れる準備はある。
ただ、一生ライナットのことは忘れないだろう。
実際、ここから去った者もいる。それはここが嫌になったからではなく、もっと視野を広げたくなったから。
もっと外を知りたい、人を知りたい、愛を知りたい。
愛情に触れたとき、生きていて良かったと痛感するのだ。
(だから……)
リオには、裏切ってほしくない。