*Promise*~約束~【完】
「こんなこと知らない方が良かったな」
「そんなわけ、ないよ」
「俺のせいで泣かせてしまった」
目の前でツーっと涙を流す彼女に手を伸ばせば、すがるように両手で包み込まれ、その額に押し付けられた。
まるで、何かに祈るように。
「私のお母さんは、いない……」
くぐもった震える声でそう言うと、鼻をすすってハッと息を吐いた。
声を出して泣けば楽になるだろうに。
俺はいったん温もりから離れると、向かい側に回り込んで今度は包み込んでやった。
俯いている顔を腹に押し付け頭を撫でれば、力強く腰に腕を回された。まるで、どこへも行かせない、と留めているように見える。
俺はそれに答えるように、立て膝をついて胸を貸した。リオもつられるように椅子からずり落ちると、足を投げ出し腰を捻って俺の服にすがり付いた。
嗚咽を漏らしながら掴んでいる服にしわを作り、泣き顔を見せまいと顔を背け耳を押し付けていた。
この鼓動が、彼女を安心させていればいいのだが。
「おまえの質問に答えてやろう。戦争はつい先日にもあった。そこの戦士にはおまえの故郷の連中も含まれていたようだが、敵の生還者についてはわからない」
安心させるための嘘を付けば、俺は罪悪感にさいなまれた。生還者はいるが、おまえには教えられない理由があるんだ。
それは俺の我が儘でしか過ぎないのに。
おまえがもし、あいつと俺を重ねて見ているのであれば、真実を言えばこの腕からすり抜けてしまうかもしれない。それが怖くて、本当のことを言えない俺を許して欲しい。
俺にはおまえが必要なんだ。
……と、そんなことは口が裂けても言えない。俺はおまえを大事にできていないし、満足に笑わせられてもいない。
俺に、おまえを束縛する権利なんてどこにもないんだ。
それが、酷く悲しいことであり、滑稽でもあった。どの口がそれを言うのだ、俺はそもそもリオの何だ、婚約者か?
婚約者なのかは、この指輪が証明している。しかし、それが無くなったときは……
俺とこいつを結び付ける証拠は一切無くなってしまう。俺たちの関係は儚く小さい蝋燭の灯火……その灯火を消すのが、ディンならば潔く目の前から消えてやろう。
もしリリスや他のやつだったら……
俺は一生、そいつを許さない。