*Promise*~約束~【完】
夢~リオside~
ここは、どこなんだろう。
真っ暗で、何も見えない。
どっちが前か後ろかもわからない。
確か、鍋で膝が熱くなって……あとはわからないや。ムギに煮干しをせがまれて、それで……
なんだか、身体がふわふわする。浮いているみたいに不安定だ。
『子守唄が、あるのよ』
『それは……自分で聞かせるべきだと思うが』
『ダメよ。私は帰らなくちゃ。この子をお願いね?ごめんね、ろくに子育てをしたことのないあなたに押し付けちゃって』
『それはいいんだ。だが、おまえは辛くないのか、と思って……』
何この会話?……男と女の人の声だよね。でもこんなの知らない。聞いたことない。
急に、ふわふわ感が無くなって冷たくなった。優しくない、温かくない。
……寂しい。
『全然。だって、二人の将来を考えたら私なんて辛いの部類に入らないもの。あなたに助けられたのは運命だって思ってたけど、会わない方が良かったのよ』
『そんなこと言うなよ……』
『……そうね。それを言う資格は、あなたたちにあるものね』
『違う、そんなんじゃない』
『私といると不幸になるの。だから、ここから私は消える』
『本気なのか……?』
『ええ』
冷たい、寂しい、暗い……とにかく、温もりが欲しかった。
誰でもいい、この手を握って欲しい。一人じゃないんだって証明して欲しい。
孤独は、嫌だ。行かないで。
『ほら、私の淹れた最後の紅茶を飲んで?冷めちゃったら……嫌だから』
『最後なんて……』
『いいから、飲んで。飲まないともう行くから』
『わかったわかった』
それ……飲んじゃダメだよ。睡眠薬入ってる。
ぼんやりとだけど、見えてきた風景。
紅茶を飲んだ後、眠りについてしまった男の人。でも、どこかで会ったような……
ぼやけた顔の女の人が私の顔を覗きこんでる。それがなんだか嬉しくなって、両手を伸ばした。
早く、温もりをちょうだい……寒い。
手を握ってくれたけど、なんだか冷たかった。それは欲しい温もりじゃない。もっと、優しい温もりが欲しいの……
手を力強く握りながら訳もわからず泣きそうになっていると、あやすかのように頭を撫でられた。
すると、すうっと心にさざ波が広がって、胸がじんわりと温かくなった。欲しかったのは、この温もり。
『覚えていればいいけど……でも、忘れた方がいいのかもしれないね』
そんなことを言った後、女の人は静かに、だけど優しい声色で歌い始めた。
流れるようなメロディーに、そのうち眠くなる。子守唄だからなのかな。
"鳥籠の中の鳥は、自由を知らない"
"自由に生きる鳥は、温もりを知らない"
"その二人が出逢うとき、互いに惹かれあい引き寄せあう"
"それは、自分にないものを持っているから、自分の知らないことを知っているから"
"鳥籠の中は自由を知り、自由に生きる鳥は温もりを知る"
"二人が出逢うとき、何かが生まれ、光を放つ"
"鳥籠の中の鳥は、自由を知りたい"
"自由に生きる鳥は、温もりを知りたい"
そんな歌が、聞こえた。私はそれを口ずさむ。
何度も、何度も、繰り返して。
決して、忘れないように……