*Promise*~約束~【完】


「我らのサーカス団は世界一!なんと言っても見所は華麗なる綱渡りと空中ブランコ!ぜひ見に来てくださいね!」



凱旋パレードのような喧騒の中心には、行列をなすサーカスの一団。

紙吹雪やラッパの音が鳴り響き、それにつられるようにたくさんの見物人が道を作っていた。

その人の間を縫うようにして進めば、たちまち道筋を失う。



「活気があるのはいいんだけどねえ……」



エリーゼはため息を吐いて一度立ち止まった。父親に肩車をしてもらっている男の子が騒いでいるのが目に映る。

だが、正直ここまで人が多いと困る。


リオの捜索を主に任されたものの、行くような宛も知らず、しかし人混みの中からは見つけられない。

途方に暮れている、と言ってもいいほどだ。


近くまでやってきたピエロを恨めしそうに睨み付ければ、そのピエロがこちらに気がついた。

そして、何も言わずに、はい、とステッキ型のキャンディーを手を取って渡す。


ちょっと!と声をかけようとしたが、ピエロは変わらない笑みで颯爽と去ってしまった。

エリーゼは見えなくなるまで睨み付けてから、改めて手の中にあるキャンディーをよく見てみた。

すると、紙吹雪も一緒に握ってしまっていたのに気がついたが、その裏面を見て目を丸くさせた。



「……なるほど」



それからエリーゼは僅かに不敵な笑みを浮かべると、キャンディーはさっきの肩車をしてもらっていた男の子にあげ、自身は城へと踵を返した。

彼女がいなくなってもなお、パレードの喧騒は続く。


ーーーーー
ーーー



「ライナット様、リオは見つかりませんでした」

「そうか……」

「しかし、サーカスは思いの外役に立ちそうです。あの中にセナ、ツェル、グロースがいます」

「そうなのか?」

「はい。彼女たちを送り届けるついでに、サーカスはここに拠点を置くことにしたとか」



実は、エリーゼは踵を返した直後に肩を叩かれた。用心して振り向けば、そこにはセナが踊り子の衣装でにこりと笑いかけていた。



「エリーゼ久し振りじゃん!元気だった?」

「ええ。で、その格好は?」

「実はさー、サーカスに折り入ってここまで運んでくれない?ってお願いしたらさ、手伝ってくれるならいいよーって言われたんだよねー。あたしたち身体能力抜群だからさ!」

「それで、ライナット様に会えるのはいつなのかしら」

「呼んでくれればいつでも行くけど今ムリ。団長に一言言わないとなんないし。んじゃ、ツェルもグロースもあたしと同じ感じだからよろしくー」

「わかったわ」



セナはきらびやかな衣装を揺らしながら、サーカスの列に戻って行った。その後ろ姿を見送りながらエリーゼはほくそ笑んだ。



(だからこのタイミングでサーカス団なのね。まあ、良い結果になったけど)



そんなこんなで、エリーゼはリオ探しをいったん中止したのだった。



「これから、か……」

「ライナット様、バラモンの件は私が受け持ってもよろしいでしょうか?ルゥの開けた分の穴埋めをしたいのです」

「リオの捜索はどうするつもりだ」

「ガイルに一任しました。彼の方が効率が良いと思いましたので」



すごみのある声でライナットが言えば、なんともないようにエリーゼは答えた。彼は一見普通そうに見えるが、きっと混乱しているはずで、もしかしたらそれに気づいていないかもしれない。

……襟が僅かに裏返っている。



「ライナット様は少々お休みになられた方がよろしいかと思います」

「休んでいられるか」

「勝手に出歩かないでくださいね?狙われている身であることをお忘れなく」

「わかっている。もう下がっていい」

「はい。ですが、一度鏡をご覧になったらいかがですか」

「今度はなんだエリーゼ」

「襟が少し立っております。ではまた後ほど」

「……」



あの不機嫌そうな顔!


ドアを閉めながらちらりと見たその顔に、エリーゼは見えなくなってから笑いが止まらなくなってしまった。

早く出ろとイライラを募らせていたのに、不意討ちであんなことを言われればそうなるのも当然か。


エリーゼは忍び笑いをしながらも、想いは別のところにあった。



(あいつが、いない)



ムギも忽然と、姿を消した。

餌を与えていたのはエリーゼで、魚のすり身をお皿に乗せて定位置に置いたものの、食べた形跡は全くなかった。

恐らくリオについて行ったのか、あるいは主と合流したのか。


どちらにせよ、あの猫の思惑は未だに知れず……



(踏み潰されてなきゃいいけど)



サーカスに集まる人だかり。あそこにいたとしても不思議ではないが、小さな身体にとっては危険な場所でもある。

使い魔に限ってそんなことは無いだろうが、万が一という場合もある。


リオと一緒にいるのなら、それはそれで危険だが。



(血迷っても、リオを悪魔なんかに売っちゃダメよ!)



エリーゼは窓から城下町を覗いて、パレードが終わってもまだまだ興奮冷めやまない人だかりを眺めた。



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