*Promise*~約束~【完】
「凄い量ですね……」
「ざっと百人以上はいるからね。こんなの一日で使い切っちゃうよ」
「一日で?!」
厨房用のテントに入れば、野菜や穀物、魚と肉も大量に袋に入っていた。コンロもガスタンクがたくさん置いてある横に設置されているが、タンクの多さでその存在感はまさに皆無だった。
水道もシンクの隣にあって、水のタンクが足元に転がっている。さすがに到着して一日目だからこの数は仕方ないのか。
そして、ぶら下がっている包丁やまな板やフライパンの数々。かなり年期が入っているのか、フライパンは変色していた。一方で、包丁は綺麗に研がれていて輝いているし、まな板は清潔な物だった。
きっと、長く使えるものはできるだけ替えないようにしているのだろう。
「じゃあ早速だけど、調理担当の人たち呼んでくるから夕食に何か作って」
「いいですけど……献立は決まってるんですか?」
「特には決まってないかな。足りないものはないと思うけど、無かったら我慢してね」
「はあ……」
「じゃあよろしくね!」
ピーターは手を振りながらテントから出て行った。テントには窓代わりに側面が捲れるようになっていて、換気ができるようになっている。
しかし、どこを探しても食器がない。フォークやスプーンは最低限しか備わっていなかった。
おかしいな、と首を捻っていると、ピーターに呼ばれたのであろう女性たちがぞろぞろと入ってくる。
「初めまして、私は料理長のボサンナと言います」
「初めまして、リオです」
「では、始めましょう。今日は景気づけにカレーにでもしましょうか」
「「「はい!」」」
ボサンナの一言で他の料理人はそれぞれ動き出す。
しかし、リオは何をすればいいのかわからずに突っ立っていると、ボサンナから指示を受けた。
「あなたは野菜を洗ってください。ですが、使った水は残しておいてくださいね」
「どうしてですか?」
「使い終わった食器を洗うからです」
「あの、食器が無いのは……」
リオが食器が見当たらない理由を聞こうとしたが、ボサンナはすぐに背を向けて肉を切り始めていた。
包丁を持って無表情で肉をぶつ切りにダンダンダンと刻んでいくが……
その背中から不穏なオーラが漂っていて声をかけられなかった。
(こ、怖いっ)
虫の居所が悪いのだろうか、と思ってしまうほどの俯き加減。しかし、本当は何も考えていないのだが。
そのときのリオには、とてもそんな風には見えなかった。
仕方なくリオは作業に取りかかることにした。
「……」
「……」
「……あの」
四人ぐらいで野菜を洗っていて、会話がなくて居たたまれなくなり声をかけるも、誰も反応がない。
きっと、洗っているから水の音で聞こえないんだ。そうだ、きっとそうだ。
リオはこの先の一抹の不安を洗い流すように、じゃがいもをじゃぶじゃぶとひたすらに洗い続けた。