*Promise*~約束~【完】
悲報
それから一ヶ月が経ち、近況はがらりと変わってしまった。
平凡な毎日。変わらぬ日々。
それらが当たり前のように続くと思っていたリオは、その日常が変わってしまったのを悲しみ嘆いた。
村から消えた男たち。女や子供、老人や村人ではない人だけが残り、彼らを待つことしかやむを得なくなった。
その原因は、リオが薬草を採った山を挟んだ向かい側に位置する国との争い。
今までは会議や話し合いの場を持っていた両国だったが、それは上面だけであったのだ。実は一触即発の状況にまで陥り、ついには戦争へと切り出した。
きっかけは、隣国がリオのいる国を手中に収めようとしたこと。見ての通りリオのいる国は自然が豊かで、ほとんど外交をしなくても生きていける。
しかし、隣国は発展した国であるため、自然はめっきり減ってしまったのだ。他国からの輸入に頼りきっている。そのため、リオのいる国を手に入れ、バランスの良い国を作ろうとしたのだ。
隣国は産業が発展し市場も大きく、たくさんの物で溢れかえっている。つまり、隣国のバドランは先進国であり、リオのいる国のガナラは田舎なのだ。
先進国のバドランはもちろん政治や経済おろか人口も多いため、ここら一帯の国を従わせている。ガナラだけは未だに屈せずになんとか繋いでいたのだが、あろうことか剣を交える結果になってしまった。
ガナラに対する利益は敵国から護られることと、経済の発展。でも、その裏を返せば闇の部分が現れる。
事実上、この調印を認めればガナラとバドランは手と手を取り合うことになるが、手中に収まってしまえばそれは意味を成さなくなる。
バドランに対する絶対的な服従。
それを、ガナラは感じ取ったのだ。
「お母さん、お父さんとディンが徴兵令が出されて連れて行かれちゃったよ。私はどうしたらいいかな?何をするべきなのかな?」
リオは一つの墓石の前で手を合わせていた。その近くにもぽつぽつと墓石が置かれている。
ここは、リオの家の隅っこにある敷地だ。死んでいった家畜や、リオの母親が眠っている。
彼女の母親はある日、あの山に行ったきり帰って来なかった。だんだんと強くなる雨。増水する川の水。
……そして、あの薬草。
そう、彼女の母親は薬草を採りに行って川に落ち、雨によって濁流と化した荒れ狂う水に流されてしまったのだ。リオが先日、危うく落ちそうになったように……
それを警戒して、父親は頑なに耳を貸そうとしなかったのだ。しかし、母親の死因を詳しく聞かされていないリオにとっては迷惑なだけであったのだが。
とにかく、今のリオにとって一番深刻なことは、誰も家畜の世話を手伝ってくれる人がいないこと。
他にも農場はあるが、出稼ぎで他の地域からやってきた若者を雇っているため不自由はしていない。他の地域となれば住民登録がされておらず、徴兵令は無効となったのだ。
それに対して不満があると言えばあるが、やはり争うために人を出し向けるのは気持ちの良い話ではないため、リオは胸のうちに仕舞うことにした。
「さて、仕事をやりますか」
住民が少ないと言えど、売れるものは売れる。
それを知っている彼女は、ひたむきに仕事に取りかかっているのだ。徴兵令が下されたのが約一週間前。
そのときから、彼女は一人でこの家を護っている。