*Promise*~約束~【完】



「ライナット様……」

「俺はやはり、馬鹿だな」



俺が自嘲気味に笑えば、エリーゼは心配そうに目を伏せた。

ガイルが持ってきた情報。

それは、母であるナタリーはもうすでに死んでいたということ。だが、なぜリリスは俺をまだいじめる?そこに意義はあるのか?

俺は口元に手を当ててしばらく黙る。胸のチクチクとした傷みに顔をしかめながら。


……ああ、そうか。リリスは狂っているから、俺が苦しむ姿を想像して喜ぶのか。

リオを目の前で奪われたのだって、俺のひきつった偽物の笑みをリリスが見たかったから。俺のポーカーフェイスにも限界がある。その崩れる様をあいつは見たかったんだ。


俺にとって、リリスはもう消したい存在になっていた。今すぐにでも消してしまいたい。

しかし、リオの顔が浮かび上がる。恨みを捨て、俺と心を通わせた彼女。俺がリリスを殺した、と言えばどんな顔をするだろうか。


俺は今まで、復讐を糧に生きてきた。リリスにも苦しみを与えたい。俺から自由を、母親を奪ったあいつを殺したい。

自由を手にしたい。鳥籠の中で無意味な羽ばたきを繰り返したくない。結局、俺は自ら鳥籠に籠っている。そこから脱け出そうとしない。


仲間がいても、心からの幸せはない。



「なあ、エリーゼ」

「はい」

「恐らく、これから俺は壊れていくだろう。あいつを消すためにおまえたちをコケにするかもしれない。そうなれば……」

「あなたを、撃ちます」

「……即答か。いい部下を持ったものだ」



エリーゼに見つめられて、俺はまたふっと笑った。俺にもそれぐらいの強さが欲しいよ。

何もかもを捨てて、この憎しみのループから離れる強さを。

でも、そこにどっぷりと嵌まったまま脱け出そうとしない俺は紛れもなく馬鹿だ。


結局、操り人形の糸を辿った先はリリスではなく俺自身だったわけか。


コートをかけている柱に力なく垂れている黒いマフラーが、俺に何かを語りかけている気がするけど。

でも、俺はそれをふいと視界から外した。


リオ、すまない。俺はやはり操り人形だったよ。



「エリーゼ、これから三人に会ってくる」

「はい。私はここで待機しています」



サーカスに送ってもらった彼女たち。

俺はその三人をどう扱うのか。

それは、俺でもわからない。


なあ、リオ。こんな俺をおまえはどう思う?

俺はおまえに嘘を言ったんだ。

それは、最初の頃に俺がおまえに教えたことなんだが、あの村から連れて帰って部屋で話をしていたときに、あのままでは処刑になるから婚約者にして殺させないようにした、と説明したな?

だが、それは大きな間違いだ。

これは俺の……私情なんだ。


なぜだか、おまえを傍に置きたくなったんだ。

理由なんてない。初めて見たときから、おまえには何かを感じた。一目惚れと言ったのもその通りだと思ったんだ。

だから……

頼むから、黙って俺の前から消えないでくれよ……!


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