*Promise*~約束~【完】
「あれ……?」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんにお客さん来てる」
リオが平均台から降りたとき、突然男の子が声を上げた。
リオはお客さん?と首を傾げる。
「うん。ピーターと団長と一緒にいるよ。でも、お姉ちゃんに会いに来たわけじゃないみたい」
「なのに、私のお客さんなの?」
「うん。会いたいんだけど、エンリョ?してるみたい」
遠慮という言葉をそこまで理解していないのか、疑問符をつけて言った。
しかし、そんなことを言われてもまったく誰かもわからないし、第一知っている人だったら連れ戻しに来るはずだ。
なのに、遠慮?なぜ?
「ていうか、なんでわかるの?」
「え?天使は当たり前だよ?僕はちょっと力が強い方なんだ」
「て、天使……!」
思わぬカミングアウトにリオは絶句した。確かに天使のような微笑みをするけど、まさか本当に天使………?
と、首を捻っていると、男の子はまだ話を続ける。
「普段は……メイドさん、なのかな?名前は……うーんと、エ……リーゼ……?」
その言葉を聞いた瞬間、さっとリオは顔色を悪くさせると一目散に走り出してしまっていた。男の子が慌てたように追いかける。
「どうしたのお姉ちゃーん!!お姉ちゃーん?」
それに答えられないくらい動揺しながら真っ先に向かうは団長のテント。一際大きなテントからは、ぼそぼそと声が漏れている。
男の子が入り口の前でそわそわとどうすればいいのかわからずに歩いていると、リオは、ここで待ってて、と男の子に言って迷わずに幕をバッと開け放った。
そこには、目を見開いているエリーゼと、ニコニコとしている団長とピーターがいた。
ーーーーー
ーーー
ー
「リ、リオ?!あんた、どうして!」
「言いたいことがあったから」
訴えるように、だけど静かにリオが言うと、エリーゼは緊張したような表情で黙った。
ピーターたちは相変わらずニコニコとしている。完全に部外者顔だ。
リオは息を吐き出した後、顔色の悪いまま切り出した。
「ライナットはどんな感じなの?」
「ライナット様は元気よ」
「嘘よそんなの。じゃなきゃエリーゼがそんな顔……しないもん」
責めるような口調に気圧され、エリーゼはぎこちない笑みを消した。
やはり、純粋な彼女には嘘は通用しない。
「だったら何かしら。戻って来てくれるとでも?」
今度はエリーゼが責め立てるように言えば、リオはかぶりを振って拒否した。それを見てイラついたように眉をひそめる。
「なら、私の前に現れたのはなぜなのかしらね。人に期待させておいてその答えは無責任よ」
「……ライナットの様子はよくわかった。エリーゼがそんな風になるぐらい」
「だから、無責任だって言ってるの。元を正せばあんたが無断で出て行ったからでしょう?ルゥはもう平気なのに!」
「良かった……ルゥ無事なんだね?良かった!」
本当に心底ほっとしているように見えて、エリーゼは少し押し黙る。ピーターたちをちらっと見れば、まだ表情は変わらない。
ということは、もう自分の身分はバレているとエリーゼは気付き、舌打ちをしたくなるのを我慢した。
この険悪な空気を、どうにかしてほしい。
(いや、私だけピリピリとしているだけか)
エリーゼは堪忍したようにやれやれ、とため息を吐いた。
「わかったわ。あんたは戻る気はないのよね。それで、言いたいことってそれだけなの?」
「……ううん。ライナットに伝言があるんだ」
「冗談でしょ?まだあんたは見つかってないことになってるのよ?どうやって伝えろって言うのよ」
「……ごめん」
顔色が戻る気配はなく、また、リオが冗談を言っているようには見受けられない。
エリーゼは謝られた理由がわからずに、またイライラと腕を組んで指でトントンとそこをつつく。
あまり外出していては、騒動が起こってもすぐに対処できない。
「約束……をしてほしいんだ」
「約束?彼と、の約束よね?」
「まさか。ライナットはライナットだけど、違う人だよ。気づいたから逃げたっていうのもある」
「……リオ!あんた……まさか……」
「なんだ、エリーゼはもう知ってるみたいだね。ピーターたちも知ったから、ここ(バドラン)に来たんでしょ?」
「ご名答~。なかなか鋭い!」
指をパチンと鳴らしてリオを指差すと、ピーターは団長と目配せした。どうやら、リオを勧誘したのは計画通りだったらしい。まんまと騙されていたわけだ。
実はリオは最近、夢を見ていた。
セイレーンの力のせいなのかはわからないが、人の想いを感じ取ることができるらしく、その人が見た風景や考えをまるで取りついたような感じで、それを夢で見るのだ。
だから、ピーターの思惑もなんとなく感じ取れたし、ライナットが苦しんでいるのもなんとなく知っている。
「あのさ、エリーゼはもう知ってるだろうけど確認させて?」
「……何よ」
「ライナットってさ」
ライナットって、天使と悪魔のハーフでしょ?