*Promise*~約束~【完】



「報告しま~す」

「あまり有力な情報を得られませんでしたが、少し気になることがありまして」

「郊外を彷徨いている怪しい人影を見た、という目撃証言がありました!以上です」



セナ、ツェル、グロースの順にそう報告すれば、たちまち三人は悪魔に駆け寄って取り囲んでしまった。

その場にいたライナット、ガイル、エリーゼ、ルゥの四人は同時にため息を吐く。

この三人は、イケメンに目がないのだ。



「お兄さんいくつ?彼女いる?」

「なんでここにいるの?ライナット様のお知り合い?」

「この後食事でもいかが?」



ナンパされて悪魔は満更でもなさそうだったが、その話はあとで、と含みを入れた言葉を発したことにより事なきを得た。

三人はまだ興奮しながらも元の立ち位置に戻る。



「その怪しい人影って?」



エリーゼは相変わらずね、と思いながら三人に質問すれば、彼女たちはさあ、と答えた。

つまり、誰かまではわかっていないらしい。



「複数?」



今度はルゥが質問すれば、セナがこくりと頷いた。

それにエリーゼはたちまち眉間にしわを寄せる。



「ねえ、まさか"あいつら"じゃないでしょうね?」



責めるように悪魔に向かって言い放てば、悪魔は、それはありません、と手を胸の前で振った。

"あいつら"の一言でピンと来たガイルも悪魔を睨み付ける。



「ホントか?」



すっかり猫を被るのを止めてしまったガイルの素性に三人は密かにときめいていた。

執事っぽいのも良かったけど、俺様系もイイ!

まったく話を掴めないが、イケメンのギャップに当てられたのか彼女たちは終始惚け放しだった。

ルゥもそのギャップに驚いていたが、もう誰が悪魔で誰が天使なのかを事前に聞いていたからだんだんと落ち着きを取り戻した。



「ええ、本当です。セイレーン討伐部隊にはちゃんと解散するように伝えました」

「だが、彷徨いている怪しい人影……かなりそれくさくないか?」

「あり得ません。第一、背いてまで続行するまでの理由はないはずです」

「そんなのわかんねぇぞ?ちゃんともう一度調べろ」

「嫌です」



一向に交わらない水と油に怒りが頂点に達したのか、エリーゼは悪魔の腕を引いて部屋から出て行こうとした。



「ほら行きなさいよ!調べなさいきちんと。ガイルの直感は侮れないんだから」

「ですが……」

「さっさと行きなさい!」



バタン!


エリーゼに叱られながら悪魔は強引に部屋から出され、怒ったように彼女は扉を閉めた。

ずんずんと三人に近づいて、低い声色で言い放った。



「他は?」



その短い言葉に少し怖じ気づいた三人は早口に有力でない情報を報告すると、足早に退出してしまった。

ちょうど入れ替わるようにして悪魔が入って来たが、その切羽詰まったような背中に何も声をかけられず、

パタン。

と、目の前で閉まってしまった扉をしばらく眺めていた。


ーーーーー
ーーー



「で、どうだったの?」



幾分気が紛れたのか、エリーゼは肩から力を抜いて言った。

その言葉に、悪魔は困惑した顔でかぶりを振った。



「……あなたの仰る通りでした」

「ほらな。エリーゼも助かった」

「まあね」



信頼関係があるのだな、と悪魔はしげしげと二人を見ていたが、ライナットの視線に気づいて咳払いを一つしてから切り出した。



「……確かに伝達は届いていましたが、それを快く承諾した、という報告は受けておりません」

「つまり、セイレーン討伐部隊はまだ健在なんだな」

「不本意ですが、そうなります」

「どんだけセイレーンを殺したいんだよ"あいつら"は」



あいつら、と強調したガイルに悪魔は首を傾げた。

何やら誤解があるらしい。



「何を仰るのですか?殺しませんよ?」

「はあ?ふざけんなよ。討伐っていうぐらいなんだから殺すんじゃねえのか?」

「いえ、討伐とは言いますがそれはセイレーンの"力"を討伐するだけなのです」

「詳しく説明しろ!」



焦ってガイルが叫ぶと、悪魔はゆっくりと誤解を招かないように丁寧に説明した。



「セイレーン討伐部隊の役目は、セイレーンの髪を切り取ることです。それを魔界で焼却処分することにより力を消滅させます。それが完了して初めて任務達成となります。ですので、魔界側が拒否すれば襲っても意味がないのです。

ちなみに、討伐は頭髪と伐採、が上手い具合に混ざりあって討伐、となったようです」

「……」



その説明にぐうの音も出ないのか、ガイルは黙りこくってしまった。

なんとも、誤解を招く名前の由来だ。


エリーゼもルゥもぽかん、と呆けていたが我に帰ったエリーゼが声を上げる。



「じゃあ、なんで解散してないのよ。そんな意味ないことしたって時間の無駄だし、リオが可哀想だわ」

「……いや、意味はあるのかもしれないぞ」

「え?」



エリーゼが訝しげにガイルを振り向けば、彼は顎に手を添えて何やら考えているようだった。

やがて、こう切り出した。



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