*Promise*~約束~【完】
「もしかしたら、バラモンが何か細工をしたんじゃないのか?」
「細工?どんなよ?」
「おい、その任務ってやつはあいつらはどこで知るんだ?」
「産まれたときから脳内に本能としてインプットされています。ですが、それに目覚めるには個人差があります」
なんだか恐ろしい内容になってきたぞ?とルゥは背筋が寒くなった。
エリーゼも硬い表情で話の成り行きを見守っている。
「それを上書きするのは可能か?」
「どうでしょう……やったことがないのでなんとも」
「じゃあ質問を変える。バラモンは上書きができる程の力を持っているか?」
その言葉にこの場にいた者全員がハッとした。
悪魔はそんなガイルを見つめていた。
(この男、本当に天使なのか?)
彼のその獲物を狩るような目付きに疑問を抱きながらも、気配が紛れもなく天使であることを再確認し邪念を振り払った。
今はそんなことを考えている場合ではない。
「俺の仮説なんだが……やつらはその本能とやらを、セイレーンを殺せ、という風に書き換えられた。それだけなら命令されれば解散するだろうが、大方、失敗すれば処分されるとかなんとか思ってるんじゃないか?それなら解散=用済みってな感じで捉えていてもおかしい話じゃない。用済み、つまり殺される、という風に勘違いして未だに任務を続行しているんだ。だからこの辺を彷徨いている。
俺たちでさえ早とちりで勘違いしてたんだから、あいつらも勘違いしててもおかしくねぇよな?」
「そうですね……この街には今天使がたくさん滞在しているので、なかなか好機に恵まれずにやきもきしているでしょう」
「それなら、明日が山場か?公演は明日からだし、天使の目が観衆に向いている間に襲って来てもおかしくねぇよ」
ガイルが、なあ?と悪魔にふるも、彼はそれどころではないのかそれに全く気づかなかったようだった。
明日……それではきっと、もう間に合わない。
悪魔は眉間にしわを寄せて床をじっと睨み続けていた。
ガイルが視線を巡らせれば、エリーゼも同じような感じで、ルゥは頭が真っ白になっているのか目が宙に向けられていた。
ライナットはさらに顔色を悪くさせ、肘をついてこめかみに指を押し当てている。
しばらくの沈黙が続いたが、静寂を破るようにライナットが言った。
「おい悪魔、ガイルの話はあり得るか?」
「はい……」
力なく悪魔が答えれば、さらに追い討ちをかけるような口調で言い放つ。
「一ついいか?ガイルの言い方からして、まだリオがこの街にいることになるが、そういうことなのか?」
まずい!とエリーゼとガイルが顔色をさっと青くさせたのに辛うじて気づいたルゥだったが、事情を知らないため首を傾げただけだった。
二人が何かを言う前に、悪魔がバカ正直に答えてしまったためにルゥまでお叱りのとばっちりを受けるはめになってしまった。
「ええ、セイレーンはサーカスと行動を共にしています。サーカスは元々天使やハーフの集まりなので、どこかでセイレーンの出現を聞き付けて保護しにやって来たのでしょう。
ご存知ないのですか?てっきり預けているものと思っていましたが……」
余計な一言により、ライナットの中に溜まっていたものが一気に弾けたようだった。