*Promise*~約束~【完】
思い出
「なんで俺まで大目玉食らわないといけないんだよー!」
「悪魔を垣間見た……」
「あんなに怒ってるの初めて見たわ……」
「あれで怒ってるんですか?静かでしたけど」
「「「それが、逆に……」」」
はあ、とガイルとエリーゼとルゥは深いため息を吐いた。
それに悪魔は無邪気な微笑みを向ける。
そんな彼を三人はじーっと恨めしそうに睨み付けた。
「おまえのせいだぞこの悪魔!一言余計なんだよ!」
「事実を言ったまでですが?」
その後もグチグチと罵ったが、けろっとした態度で返答する悪魔に興がさめたのか、ガイルはまたため息を吐いて引き下がることにした。
これ以上労力を使っても無駄なだけだ。
「まあでも、伝言言えたから良いわ。バレたものは仕方ないし」
ライナットにお叱りを受けている最中、エリーゼはリオに会ったことをおずおずと報告した。
ライナットはより一層眉間のしわを深めたが、伝言のおかげでそのしわは僅かに戻り、三人は地獄のような時間から解放されたのだった。
『指輪を無くさないって約束して』
この鶴の一声にライナットは心を打たれたのか、目を泳がせた後三人を下がらせたのだった。
今頃、部屋の中で心を整理させていることだろう。
「リオ元気そうだった?」
「もちろんよ。なんだか大人びて見えたわ」
「最初来た頃は言い返してきたもんねー。なによ!って感じで」
「あー、懐かしいわね」
ルゥが似ていない物真似をするが、エリーゼはそれからリオの面影を思い出していた。
ガイルと悪魔はその輪から少し外れて歩く。
「ライナット様を邪険にしてたよね。まあ敵なんだから仕方ないけど」
「それ、私前に聞いたことあるのよ。なんでいきなりなのに婚約者として受け入れられたのかって」
「それはディンに似てたからでしょ?最初あいつ見たときビビッと来たよ」
「それが違ったのよねー」
え?とルゥは目を丸くさせた。
エリーゼも、理由聞いて驚いた、と肩を竦めている。
「違うの?それ以外ないでしょ」
「『理由?……なんだろうね、支えてあげたいって思ったからかな?』だってさ」
「うわーなにそれ。それだけ?」
「『なんか、側にいてあげたいって思ったんだ』……それってさ、セイレーンの本能かしらね。ライナット様の正体に本能的に気づいて堕天しないように見張ってたとか」
「えーロマンチックじゃないな。でも、結果的にはそうなるのか。リオが来てからライナット様は丸くなったし」
「優しい目をなさるようになったわよね」
「俺でさえリオに向けるその眼差しにドキッとしたよ」
まさか……とエリーゼが明らかに引いたように距離を取ると、違うから!とルゥは声を上げた。
冗談に決まってるじゃないの、バカ?とエリーゼが笑いながら言えばルゥはふて腐れたのか頬を膨らませた。
それをエリーゼは指先でつついてプッとさせる。
そして、二人で笑い合った。
「おかげで、私たちにも笑顔が帰ってきたわ」
「帰ってきた、ね。うん、それぴったりだよ」
ルゥが若干目を光らせながら言えば、なに泣いてんのよ、とエリーゼは呆れたように言った。
彼は目をごしごしと治った腕で拭って泣いてないし、と説得力に欠ける掠れた声で返した。
彼らは、元犯罪者。罪人だった者たちである。
彼らがこうやって過去を克服し、笑い合えているのは奇跡といっていいかもしれない。
それは、紛れもなくライナットとリオのおかげなのだ、とガイルもその微笑ましい光景を見守るように見つめていた。
悪魔はその柔らかな表情につられるようにして微笑んだ。
天使は、やはり天使なのだ。